査定バイヤーが出会った”希少な逸品”への熱い想いを語る連載企画。

第2回は、骨董品に広い知見を持つ査定バイヤー渡邉が担当します。プライベートでも10年を超える骨董品の収集歴を持つ筋金入りのコレクターで、トレファク出張買取の査定バイヤーとなってからも、新たな名品との出会いを求めてあくなき探求を続けています。

数えきれないお品物の価値を見定めてきた彼が選ぶ逸品は、人間国宝に認定された島岡達三氏による「塩釉縄文象嵌皿 (えんゆうじょうもんぞうがんざら)」。日本を代表する陶芸家の作品を通し、自身の思いを重ねながら骨董がもつ美の真髄に迫ります。

今回の語り手

骨董品担当 査定バイヤー 渡邉

トレファク出張買取
骨董品担当 査定バイヤー:渡邉

煙管(キセル)やパイプ、ライターといった喫煙具をはじめ、スーパー戦隊シリーズ、超合金シリーズまで──。骨董とホビーを深く愛するコレクターであり、その卓越した知見を生かしてトレファク出張買取バイヤーに就任。休日も知的好奇心は留まることを知らず、美術館や博物館、和洋食器の専門店、骨董店、さらにはオークションハウスへと足を運び、 日々感性を研ぎ澄ませている。

大正から昭和初期に製造された喫煙具

画像は大正から昭和初期に製造されたと見られる喫煙具。当時の職人によるこだわりと、手仕事ならではのぬくもりを感じさせるお気に入りの逸品だという。自宅とトランクルームにはさらに膨大なコレクションが並び、その確かな鑑定眼の裏付けとなっている。

縄文の美を紡いだ人間国宝・島岡達三の名品

島岡達三作「塩釉縄文象嵌皿」

私がこれまでの査定の現場で出会い、今も胸に深く刻まれているのが、民芸陶器の人間国宝・島岡達三氏の「塩釉縄文象嵌皿 」です。1919年、東京の組紐職人の家に生まれた島岡氏は、20代で益子焼の巨匠・濱田庄司に師事。器の命である土作りに没頭しながら、博物館や大学で古代土器の縄文技法を学び、1953年に自らの窯を築きました。生家のはぐくんだ「紐」の感性と、古代の「縄文」が出会い、彼にしか作れない唯一無二の芸術が誕生したのです。

美術品の世界では、作家が長い生涯をかけて技術を極めた、晩年の作品ほど高く評価されますが、この「塩釉縄文象嵌皿」は、まさに円熟の極みに達した島岡氏が遺した代表作と言えます。

唯一無二の魅力を放つ、縄文象嵌と塩釉の技

縄文象嵌と塩釉の「塩釉縄文象嵌皿」

「塩釉縄文象嵌皿」には、島岡氏が得意とする2つの技法の真髄が存分に発揮されています。

ひとつは素地に組紐を転がしてつけた縄文のくぼみに、別の素材を埋め込んで表面を削りだす「縄文象嵌」です。古代土器に用いられた技法を発展させた独自の緻密な幾何学模様が表現されています。

続いて、師の濱田氏から受け継ぎ、発展させた「塩釉」の技法です。この技法は焼き窯の内部が最高温度になったときに塩を入れることで、ナトリウムと粘土の珪酸・アルミナが化学反応を起こし、ガラス質の美しい被膜が生まれます。呉須(顔料)が焦げ茶色から藍色までのグラデーションを生み、まるで底から湧水が溢れているかのような深い色合いが魅力です。

「塩釉縄文象嵌皿 」の名を持つ作品は数年にわたって作られましたが、島岡氏の手による縄文象嵌と塩釉、焼き窯の炎によって、一つとして同じものが存在しない一点モノとしてその価値を高めています。

共箱が証明する「本物の価値」

スマートフォンと比較しても直径56cmを超える大作であることが分かる

藍の発色のクオリティーや緻密な縄文象嵌を一目見て、すぐに島岡達三氏の名前が浮かびました。美術館の図録に載っている「塩釉象嵌縄文大皿」と同手(※)で、藍色の深みや文様の美しさも別格だったためです。直径56cmを超える大皿ならではのダイナミックな構図と真円を描く繊細なバランスが素晴らしく、益子焼らしいぬくもりも感じさせる逸品です。

(※)同じ時期に、同じ職人・工人ないし工房、環境において製作されたと思われる品物のこと

「塩釉縄文象嵌皿」の共箱

作品が収められていた共箱(保護用の木箱)が丁寧に保管されていたことからも、持ち主の方がこの作品を長く大切にされてきたことが伝わってきました。骨董品や美術品の買取では、お品物の状態から持ち主の方の想いを感じ取ることも多く、そうした丁寧な扱いが作品本来の美しさを今に伝えてくれています。

力強さと洗練が同居する「塩釉縄文象嵌皿」

「塩釉縄文象嵌皿」は、美しい照りとコバルトブルーの鮮やかなグラデーション、そして力強さと繊細さを併せ持つ縄文模様が見事な作品です。島岡氏が施す縄文模様は整然と配されており、素朴な力強さのある土の表情と洗練された気品を感じさせます。

島岡氏が得意とした塩釉技法は、実践する作家が極めて少ない難度の高い技術です。塩釉とは、元々はヨーロッパ諸国で焼き物の強度を上げるために用いられていた釉薬でしたが、師である濱田氏が日本の陶工として初めて導入しました。

しかし、塩釉技法は窯内の配置や温度、塩を投入するタイミングや量、さらには気温や湿度など、あらゆる条件を揃えなければ成功しません。窯の内側に付着した釉薬が垂れてしまったり、棚と作品が癒着して取り出す際に割れてしまうなど焼成のほとんどが失敗に終わる過酷な技法ですが、島岡氏は師から継承したこの難技を見事に体得しました。

これほど大振りの皿が傷もなく美しく焼き上がっていること自体、島岡氏の卓抜した技術力を物語っています。晩年に近い時期に手がけられた本作は、彼が磨き抜いた技術の粋が凝縮された至高の逸品なのです。

象嵌赤絵の評価も高い島岡達三の技法とは

白い窓絵の中に赤絵を配した島岡達三氏の作品
白い窓絵の中に赤絵を配した島岡氏の代表的な作風を示す作品

島岡氏の技法では塩釉と縄文も人気ですが、象嵌赤絵、地釉練、窯変による作品も高く評価されています。

象嵌赤絵は、あえて縄文象嵌を施さない部分を丸い窓のように作り、そこに自然の草花をモチーフにした文様を描いたものです。素朴なぬくもりのある縄文象嵌の素地に、師の濱田氏譲りの鮮やかな赤絵が映え、骨董愛好家の間でも人気です。

職人が繋ぐ工房作品の市場価値

十四代酒井田柿右衛門「錦牡丹鳥文額皿」

骨董品では特に、人間国宝の作品を高く評価します。例えば、色絵磁器の人間国宝である十四代酒井田柿右衛門による「錦牡丹鳥文額皿(にしきぼたんちょうもんがくさら)」。 初代柿右衛門が1647年ごろに生み出した日本初の赤絵磁器を現在に受け継ぎ、美を追求した陶芸家による逸品です。

清水卯一「青瓷寛入壷」

鉄釉陶器の人間国宝である清水卯一氏の「青瓷寛入壷(せいじかんにゅうつぼ)」は、重なり合った貫入(ひび割れ)が織りなす見事な作品です。深みのある色合いは清水氏が生み出した多彩な鉄釉薬の賜物でしょう。

陶芸家以外では、彫漆(ちょうしつ)の人間国宝に認定された音丸耕堂が挙げられます。もともと漆器は「朱・黒・黄・緑・褐色」の五色のみの表現でしたが、音丸氏は当時の新素材のレーキ顔料をいち早く取り入れ、様々な色彩表現に成功しました。

音丸耕堂「高麗盆」

写真の「高麗盆」のように繊細なデザイン性と色調が彼の魅力です。

人間国宝に認定されている作家は、十代三輪休雪氏、吉田美統氏、三代徳田八十吉氏らも人気があり、本人作はもちろん、工房作(作家の指導のもと職人が制作した作品)でも高く評価します。

由来がわからない骨董品の価値を見出す

これまで数多くの査定を行ってきましたが、最も出会う機会が多い骨董品は陶器でした。

陶器の査定では、一見すると傷や汚れのように見える模様が、実は高評価に繋がる要素であることは少なくありません。人間国宝をはじめとする美術品には贋作も存在しますが、本物には色の深みや釉薬の均一さ、細工の緻密さに絶対的な差があります。また、共箱の銘や、作品に捺された独自の陶印(島岡氏であれば「タ」に似た文字)も真作を保証する重要な手がかりとなります。

しかし、由来不明な骨董・美術品は価値がわかりにくく、銘や陶印の解読自体が難しいのも事実です。

もし「価値がわからないけれど、古い陶器がある」という際には、自己判断で処分してしまう前に、査定のプロにご相談いただくことをおすすめします。

私たちトレファク出張買取が、眠っている価値を見出すお手伝いをさせていただきます。

※こちらの記事の内容は原稿作成時のものです。最新の情報と一部異なる場合がありますのでご了承ください。

この記事を書いたひと
トレファク出張買取の中の人

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